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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1409号 判決 1988年3月08日

控訴人 松山豊子

右訴訟代理人弁護士 里見和夫

同 氏家都子

被控訴人 破産者株式会社赤松紙工社破産管財人 高澤嘉昭

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

主文一項と同旨。

第二当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張は、控訴人において別紙のとおり当審における附加主張をなし、被控訴人において右控訴人の当審附加主張は争う、と述べたほか、原判決事実摘示のとおりであり、《証拠関係省略》

理由

一  株式会社赤松紙工社は、昭和五四年一二月三日午前一〇時大阪地方裁判所において破産宣告を受け(同庁昭和五三年(フ)第三号)、破産管財人として被控訴人が選任されたこと、同人によって右破産の手続きが遂行されたうえ、昭和五八年一一月一四日右裁判所により破産終結決定がなされたこと、控訴人は、昭和五〇年五月五日相続により本件物件の所有権を取得したが、右物件につき本件各登記が経由されていること、の各事実は当事者間に争いがない。

二  被控訴人の当事者適格について

ところで、本件は、右のとおり株式会社が破産し、破産管財人が選任されて破産手続が進められ、その終結決定がなされるに至ったが、なお、第三者所有の物件について、破産会社を権利者とする抹消登記未了の抵当権設定登記が存在する場合に、抵当権設定者がその抹消登記手続きを求めるべき相手方について、これを控訴人が主張するように破産管財人とすべきか、或いは、商法の規定により裁判所によって選任された清算人とすべきかの問題である。そして、この問題は換言すれば、株式会社の清算手続における特則たる破産法に基づいて選任された破産管財人の職務権限及び義務の範囲、もしくは存続いかんの問題に帰着する。

しかして、この点については、当裁判所も原審と同様に、本件における破産管財人たる被控訴人の任務は破産裁判所の前示終結決定により既に終了し、被控訴人には、本件各登記の抹消に関するような事務処理についての権限ないし義務はもはや存しないものと判断する。

蓋し、本件のように破産者が株式会社である場合には、破産宣告によってその会社は解散し(商法四〇四条一号、九四条五号)、これについて破産管財人が選任された場合には、同人により通常は破産会社の財産関係の清算及び破産債権者への公平な弁済を目的とする破産財団の管理、換価、財団債権の弁済等がなされ、最後の配当手続が実施された後、破産管財人の任務終了に伴う計算報告のための債権者集会が開かれ(破産法一六八条)、これが終結すると、破産裁判所は破産終結決定をなし、公告をすることとなる(同法二八二条)。そして、右破産終結決定により、破産管財人は、破産法一六九条による緊急処分、二八三条による追加配当の必要がある場合等、破産法が特に定めた例外的な場合を除いては、その任務は終了し、爾後はなお残余財産(ただし、追加配当の必要のある財産を除く)があって更に清算手続に移る場合、あるいはその他清算事務を要する場合には清算人(この場合の清算人は後記のとおり商法四一七条二項による清算人)においてその処理に当るべきものと解するのが相当であるからである。

ところで、控訴人は、破産終結決定の後であっても本件の如き登記の抹消登記手続を請求すべき相手方は破産管財人と解するのを相当とすると主張し、右解釈を支持するものとして、昭和一七年一〇月三〇日の法曹会決議(法曹会雑誌二〇巻一一号五三頁、右決議の存在及びその内容については《証拠省略》によってこれを認める。)を挙げる。

なるほど右決議は、その第二項において、破産終結決定後においても、破産会社の有した抵当債権が弁済により消滅しているにかかわらず、抵当権設定登記の抹消登記が未了の場合には、「債務者(抵当権設定者)ヨリ破産管財人ニ対シ抵当権抹消登記ノ請求ヲ為スベキモノトス」としている。しかしながら、右決議は、その設問及び決議の内容を全体としてみると、破産終結決定前の計算報告の債権者集会において、その処分方法につき決議のないまま残存する財産があり、当該財産の処分いかんによっては追加配当を要することも予想される場合に関するものであって、本件とは事案を異にするから、これを本件に援用することは相当でない。

そうすると、右決議の存在をもっては、いまだ控訴人の主張を裏付ける根拠とはなし難いものというべきである(なお、原判決が掲げる最判昭和四三年三月一五日民集二二巻三号六二五頁は、控訴人がいうように、株式会社が破産宣告、同時廃止の決定を受けたが(この場合、破産管財人が選任されていない)なお残余財産がある場合に、右清算の任務にあたるのは、商法四一七条一項本文の解釈上、従前の取締役となるのか、同条二項に基づき利害関係人の請求により裁判所の選任した清算人とすべきかの問題に関するものであり、また、最判昭和五八年一〇月六日民集三七巻八号一〇四一頁も、名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後に行使上の一身専属性を失なった場合には、右慰藉料請求権は破産財団に属する余地がなく、その訴訟はその相続人において承継することになる旨を判示しているものであって、いずれも本件とはその論点を異にするものというべきであり、その判旨を類推ないし援用することも必ずしも適切ではない。)。

そして、本件においては、前叙のとおり、既に破産終結決定がなされており、又、追加配当を要するような残余財産の存在、その他破産法が定めた例外的場合に該当すると認めるに足る証拠もないのであるから、配当による破産終結の効果として破産管財人の任務は既に終了したものというべきである。

しかして、本件抵当権設定登記の抹消登記手続の如き清算事務が存在するような場合には、破産会社は、なお、その清算事務の範囲内において存続しているものと解されるところ、その清算事務にあたるべき清算人の選任については、株式会社の清算手続きについての商法四一七条二項の規定によるべきものと解するを相当とする。

三  以上の次第であるので、控訴人の被控訴人に対する本件訴えは、当事者適格を欠くものを相手方とするものとしてこれを却下すべきであり、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 諸富吉嗣 裁判官 吉川義春 梅津和宏)

<以下省略>

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